はじめに
このコラムを書いている時点(2007年10月上旬時点)で、 Intel製のクアッドコア(つまり、CPUコアを4つ搭載)のCPUにおいて、 最上位のCore 2 Extreme QX6850が定格動作クロック3GHzで12万5000円程度です。 一方、最下位のCore 2 Quad Q6600が定格動作クロック2.4GHzで3万5000円程度です。 両者の差はおよそ9万円です。
もし、Core 2 Quad Q6600が3GHzで動作してくれたら、 得した気分になりますよね?
というわけで、Core 2 Quad Q6600をオーバークロックしてみました。
※定格とは、オーバークロックしていない状態のことをいいます。
※当サイトの内容に基づくどのような運用結果に対しても、管理人は一切の責任を負いかねます。 あらかじめご了承ください。 特に、オーバークロックはCPU、マザーボード、メモリモジュールなどのパーツの寿命を縮め、 最悪は破損させる危険があります。くれぐれも注意してください。
熱対策と冷却パーツ
CPUに付属のクーラーでは、オーバークロック状態で、 アイドル時(負荷のかかっていない状態のとき)にCore Temp(Windows上でCPUのコア温度を表示するツール)で確認したコア温度が50度前後になってしまいました。
冷却強化のため、CPUクーラーやケースファンを交換し、シルバーグリスを使用しました。
追加購入したパーツ
パーツ | 商品名 | 購入価格(2007年10月上旬) |
---|---|---|
ケースファン | SCYTHE KAZE-JYUNI 1900RPM SY1225SL12SH(2個) | 2,248 |
CPUクーラー | SCYTHE ANDY SAMURAI MASTER SCASM-1000 | 4,000 |
グリス | AINEX シルバーグリス AS-05 | 1,575 |
合計 (消費税込、送料除く) | 7,823 |
※もとのパーツ構成については、 「クアッドコアCPU Core 2 Quad Q6600 レビュー」を参照。
冷却パーツの効能
CPUに付属のクーラーを SCYTHE ANDY SAMURAI MASTER SCASM-1000に交換。 これにより、Core Tempで測定したコア温度が7度ほど下がりました (この時点では通常のシリコングリスを使用)。
※SCASM-1000装着時は、PCケース(OWL-612-SLT)のパッシブダクトを取り外す必要があります。
OWL-612-SLTに標準搭載されている背面の12cmファンを SCYTHE KAZE-JYUNI 1900RPM SY1225SL12SHに交換。 これにより、起動直後のBIOS設定画面でのCurrent System Temperatureが40度から37度に下がりました。
さらに、SCASM-1000に付属の12cmファンを SCYTHE KAZE-JYUNI 1900RPM SY1225SL12SHに交換。 これにより、Core Tempで測定したコア温度が3度ほど下がりました。
※SCASM-1000に取り付けるファンは、表裏を間違えると、冷却効果が得られなくなります。 ヒートシンクに風を送るようにファンを設置してください (ファンの側面に矢印が書いてあります。それが風の方向です)。
また、AINEX シルバーグリス AS-05を塗りなおすと、 通常のシリコングリスと比較して、 Core Tempで測定したコア温度が3度ほど下がりました。
あと、室温(パソコンを設置している部屋の温度)が下がると、 それに応じてもろもろの温度が下がります。
以上のパーツ交換等の対策により、室温25度前後の環境で、 オーバークロック状態でのアイドル時にCore Tempで測定したコア温度が36〜40度くらいになりました。
※ケースファンとCPUファンは、電源ユニットからの1つの4ピンコネクタから分岐ケーブルを使って電源を供給しています。各々のファンの回転数は最大です。
※動作クロック設定ごとの温度差は、高負荷時にはアイドル時以上に開きます。 また、高クロック設定であるほど、アイドル時と高負荷時の温度差が大きくなります。
BIOS設定
BIOSにおいて、以下のように設定しました。
Advanced BIOS Featuresにおいて、省電力機能を無効化:
- EIST (CPU EIST Function)をDisabledにする
- C1E (CPU Enhanced Halt)をDisabledにする
MB Intelligent Tweaker (M.I.T.)において、
- PCI Express Frequency:100
- CPU Host Clock Control:Enabled
- Performance Enhance:Standard
- System Voltage Control:Manual
- High Speed DRAM DLL Settings:Option1
さらに、動作クロックに合わせて次のように設定しました。
3.0GHz動作時
- CPU Host Frequency: 333
- System Memory Multiplier(SPD): 2.40
- DDR2 OverVoltage Control: Normal
- PCIE OverVoltage Control: Normal
- FSB OverVoltage Control: Normal
- (G)MCH OverVoltage Control: Normal
- CPU Voltage Control: Normal
3.3GHz動作時
- CPU Host Frequency: 367
- System Memory Multiplier(SPD): 2.00
- DDR2 OverVoltage Control: Normal
- PCIE OverVoltage Control: Normal
- FSB OverVoltage Control: Normal
- (G)MCH OverVoltage Control: Normal
- CPU Voltage Control: 1.30000V
3.4GHz動作時
- CPU Host Frequency: 378
- System Memory Multiplier(SPD): 2.00
- DDR2 OverVoltage Control: Normal
- PCIE OverVoltage Control: Normal
- FSB OverVoltage Control: Normal
- (G)MCH OverVoltage Control: Normal
- CPU Voltage Control: 1.35000V
3.5GHz動作時
- CPU Host Frequency: 389
- System Memory Multiplier(SPD): 2.00
- DDR2 OverVoltage Control: Normal
- PCIE OverVoltage Control: Normal
- FSB OverVoltage Control: Normal
- (G)MCH OverVoltage Control: Normal
- CPU Voltage Control: 1.40000V
3.6GHz動作時
CPU Voltage Controlの値の調整だけではパソコンが立ち上がらなかったため、 (G)MCH OverVoltage Controlの値も調整しました。
- CPU Host Frequency: 400
- System Memory Multiplier(SPD): 2.00
- DDR2 OverVoltage Control: Normal
- PCIE OverVoltage Control: Normal
- FSB OverVoltage Control: Normal
- (G)MCH OverVoltage Control: +0.500
- CPU Voltage Control: 1.45000V
いくつかの注意点
CPUの動作クロックを上げると、コア温度が上昇します。 また、動作を安定させるためにCPU Voltage Controlの値を引き上げる必要が生じます。 CPU Voltage Controlの値を引き上げると、コア温度がさらに上昇します。
コア温度は、CPU Voltage Controlの値を変えずに動作クロックを上げたときより、 動作クロックを上げずに電圧を上げたときのほうが、より高くなります。
同じ型番のCPUでも個体差があるため、 同じパーツ構成、同じBIOS設定でもうまくいかない可能性があります。 例えば、コア電圧の基準となるVID(Voltage ID)と呼ばれる値は、 同じ型番のCPUでも異なる場合があります。 VIDが低いほどオーバークロック耐性が高い傾向があるといわれています。 なお、今回使用したCPUのVIDは1.2625です。
テストと結果
TMPGEnc XPress 4.0
TMPGEnc XPress 4.0を利用して、 MPEG2形式の動画ファイルをDivX形式にエンコードしてみました。
素材:54分59秒のテレビ番組を録画したMPEG2形式の動画ファイル
TMPGEncの設定:
- 入力設定 - フィルター - 映像ノイズ除去
- 静止画:強さ100、最大範囲(最低速)
- 時間軸:強さ100、広い(低速)
- 出力設定 - 映像設定
- サイズ:704x480ピクセル
- アスペクト比率:ピクセル比 10:11(NTSC 4:3)
- フレームレート:30fps(プログレッシブ)
- パフォーマンス:最も優れた品質
- レート調整モード:1パス固定品質
- 固定品質時の映像品質:CQ=4.00
- 出力設定 - 音声設定
- サンプリング周波数:48000Hz
- チャンネルモード:ステレオ
- ビットレート:192kbps
上記の設定でエンコード作業を実行しているとき、 WindowsタスクマネージャでCPU使用率を見ると、だいたい70%〜90%の間を変動しています。 また、4つのコアをすべて使用しているのがわかります。
エンコードにかかった時間は以下のとおりです。 動作クロックにおおむね比例しているといえます。
3.6GHz - 1時間17分28秒
3.5GHz - 1時間19分14秒
3.4GHz - 1時間23分06秒
3.3GHz - 1時間25分38秒
3.0GHz - 1時間32分00秒
2.4GHz - 1時間49分37秒(非オーバークロック)
Prime95
システムの安定性をチェックする目的で、CPUとメモリモジュールに高負荷をかけるためのツールにPrime95と呼ばれるものがあります。実際、このツールを実行中にWindowsタスクマネージャでCPU使用率を見ると、4つのコアすべてが常に100%になっていることが確認できます。 今回使用したPrime 95のバージョンは25.5aです。 室温25度前後の環境でTorture Test(Blend)を実行しました (Torture Testは、日本語に訳すと「拷問テスト」)。
3.0GHz、3.3GHz、3.4GHzの設定で、Torture Testを12時間実行させることに成功しました。 3.4GHzの設定で、Core Tempによるコア温度の表示の最大値が70度台前半でした。
3.5GHz以上の設定では、Torture Testを開始するとCore Tempによるコア温度の表示が80度を超えてしまったので、中止しました。
今回のパーツ構成でオーバークロックをしつつ安定的な運用となると、3.3GHz〜3.4GHzあたりが妥協点かもしれません。とはいえ、温度に気を配りながらであれば、今のままでも実用上は3.6GHzの運用が可能だと思われます。
それにしても、高級なメモリモジュール(例:PC2-10400(2007年10月上旬時点で1GBx2で65,000円程度))や大掛かりな冷却装置(例:巨大クーラー、ペルチェ、ガス冷など)を用いずに低コストで簡単に動作クロックを1.5倍(2.4GHz→3.6GHz)に高めることができたことで、Core2 Quad Q6600のオーバークロック耐性の高さを実感しました。